
全国経理教育協会が実施している簿記能力検定試験、通称「全経簿記」をご存知でしょうか?
簿記=「日商簿記」だと思っている方が多いかと思いますが、実は違います。
簿記の検定試験は全部で3種類存在します。
・商工会議所が実施している日商簿記検定試験、通称「日商簿記」
・全国商業高等学校協会が実施している簿記実務検定試験、通称「全商簿記」
そして先ほども申し上げた全国経理教育協会が実施している簿記能力検定試験、通称「全経簿記」の以上3種類となります。
私は平成28年7月10日の試験で全経簿記の最難関、全経簿記上級に合格しました。
勉強し始めた当初から、全経簿記上級に関しての生きた情報がネット上に少ないことが不満だったので、今回は私の知る限りの全経簿記上級の情報をお伝えしていこうと思っております。
目次
全経簿記上級の試験概要
試験日
全経簿記上級の試験は2月と7月の年2回実施されます。
全経簿記のその他の級に関しては、2月と7月と11月の年3回実施されております。
試験日の2ヶ月近く前より申込受付が開始しますので、お忘れなく!
ちなみに全経簿記上級と双璧をなす日商簿記1級の試験は、6月と11月の年2回実施されております。
うまい具合に(意図的に?)全経簿記上級と日商簿記1級の試験日がズレているので、その両方を受験される方が多いです。
これからの受験を考えている皆様には、簿記最高峰の試験に合格するチャンスが年に4回あると考えていただければと思います。
受験料
全経簿記上級を受験するには7,500円(税込)の受験料がかかります。
正直少し高いです。。。
一方で日商簿記1級の受験料は7,710円(税込)なので、雀の涙ほどではありますが、全経簿記上級の方が費用を抑えて受験することができます。
受験資格
受験資格に制限はありません。
どなたでも受験することができます。
試験科目
全経簿記上級では全4科目を受験することになります。
【商業簿記・会計学】2科目で90分
【工業簿記・原価計算】2科目で90分
2科目終了後に10分前後の休憩はあるものの、3時間電卓を打ちっぱなしの試験なので体力的にも精神的にも非常に辛い試験となっております。
試験科目の詳しい内容については後述いたします。
合格発表日
合格発表日は約2ヶ月先となります。
合否の確認方法は受験した試験会場によって異なります。(試験当日に試験官から説明があると思います。)
全経協会検定管理システムに受験者情報を登録しておくことで、インターネット上で試験の合否を確認することもできます。
科目ごとの点数も分かりますので、全経簿記を受験する方には登録することをオススメいたします。
合格証書
合格証書の受取方法も試験会場によって異なります。
私の場合には、試験会場となった場所まで取りに行くか、有料で自宅まで発送してもらうかの2択でした。
合格証明書
税理士試験受験の際などに合格証明書の発行が必要な場合には、全国経理教育協会宛に合格証明書交付申請書を郵送しなければなりません。
詳細については全国経理教育協会のホームページを確認してください。
全経簿記という資格の価値
冒頭でも申し上げたとおり、簿記といえば日商簿記というイメージが世間にはあります。
しかし全経簿記は日商簿記に勝るとも劣らない検定試験なのです。
全経簿記1級と日商簿記2級は同等の資格
例えば、日商簿記2級といえば企業が求めている資格として常に最上位に位置する資格です。
社会的に認められた資格と言えるでしょう。
日商簿記2級の資格を取得していれば、履歴書にも胸を張って記載できます。
そしてその日商簿記2級と同程度の知識を求められるのが、全経簿記における全経簿記1級です。
同程度の知識が求められるという事はつまり、「企業が求めている資格=日商簿記2級=全経簿記1級」という図式が成り立ちます。
全経1級の資格を取得することが出来れば、堂々と履歴書に記載することが出来るのです。
そして、社会的にも認められる能力を持ち合わせていることになるのです。
全経簿記上級と日商簿記1級も同等の資格
日商簿記には2級よりも更なる知識を問われる1級というものが存在します。
日商簿記2級の取得には中小企業向けの知識が問われますが、日商簿記1級の取得には大企業向けの知識が問われることになります。
裏を返せば、日商簿記1級の資格を取得するということは、大企業から求められている知識レベルに到達しているという証明になります。
したがって、日商簿記1級は就職にとても有利な資格と言えます。
また、税理士・公認会計士などの国家資格への登竜門とも呼ばれております。
日商簿記1級の資格を取得すると、税理士試験への受験資格が得られます。
本来税理士試験の受験資格がない方は、税理士試験を受験することさえができないのですが、日商簿記1級に合格した場合には受験可能となります。
そんな日商簿記1級と同等の資格が全経簿記上級です。
全経簿記上級も日商簿記1級と同様に資格を取得した際には、税理士試験の受験資格を得ることができます。
問われている知識レベルもほぼ同じです。
つまり、「税理士試験受験資格を得ることができるほどの知識量=日商簿記1級=全経簿記上級」という図式になる訳です。
したがって、全経簿記上級も就職にとても有利な資格と言えるでしょう。
全経簿記上級と日商簿記1級の違い
出題範囲
出題範囲に関しては、全経簿記上級も日商簿記1級もほぼ一緒といえるでしょう。
出題範囲の詳細は全国経理教育協会、そして商工会議所のホームページで確認できます。
実際に私は日商簿記1級の教科書を使用して、全経簿記上級に合格しました。
このことからも出題範囲がほぼ一緒であることが分かると思います。
出題方法
出題方法に関しては、全経簿記上級と日商簿記1級では大きく異なります。
全経簿記上級ではどの科目においても、理論問題を記述式で問われることが非常に多いです。
必然的に全経簿記上級では理論対策が必須となります。
また、計算問題に関しては基礎的な部分が多く問われます。
一方日商簿記1級では、理論問題に関しては会計学で穴埋め問題程度の出題しかありません。
しかし、出題される問題の一つ一つは基礎的なものではなく、応用問題が多いので苦戦が強いられます。
配点と合格条件
全経簿記上級は1科目100点満点で、ほぼ全ての解答に配点がつく特徴があります。
各科目の得点が40点以上でかつ、4科目の合計得点が280点以上で合格となります。
40点を下回る科目があると不合格になりますので、注意が必要です。
日商簿記1級は1科目25点満点で、解答箇所によっては配点がつかないという特徴があります。
各科目の得点が40%以上でかつ、4科目の合計得点が70%以上で合格となります。
こちらも40%を下回る科目があると不合格になります。
勉強時間
全経簿記上級合格には600時間~800時間の勉強時間を目安としていただきたいです。
一方で日商簿記1級合格には800時間~1,000時間の勉強時間を目安としてください。
基礎が問われやすい全経簿記上級と、応用が問われやすい日商簿記1級で勉強時間に差がついております。
ただし、全経簿記上級では理論問題の記述式が多く出題されるので暗記しなければならない知識量は日商簿記1級よりも多いです。
暗記が苦手な方は同程度の勉強時間が必要になるかもしれません。
難易度
日商簿記1級の方が応用問題が出題される確率が高いので難易度が高いと言いたいところですが、全経簿記上級の理論問題は非常に難しいです。
日商簿記1級が100m走だとしたら、全経簿記上級は200m走です。
どちらも同じ陸上競技ですが、試されている内容が異なります。
つまりどちらも同じ簿記検定ですが、試されている内容が異なるので、一概にどちらが難しいという判定はできないというのが私の結論です。
合格率
全経簿記上級の合格率は20%を超えることもありますが、近年は難化傾向にあり15~17%がアベレージだと思います。
日商簿記1級の合格率は10%前後で安定しております。
合格率だけでみると、全経簿記上級は日商簿記1級よりも合格しやすい試験となります。
日商簿記1級の受験を考えている方は、必ず全経簿記上級もセットで受験しましょう。
商業簿記・会計学の試験対策
商業簿記
商業簿記では決算整理後残高試算表・繰越試算表・損益計算書・貸借対照上などの表作成問題がほぼ全ての回で出題されております。
また、仕訳問題も頻出なので一つ一つの仕訳の正確性も問われます。
さらに連結会計の出題頻度も増えているので、学習しておく必要があります。
表作成が苦手だと言う方はまだまだ勉強不足です。
個人的には商業簿記が最も点数の取りやすい科目だと思っております。
繰り返し練習することで確実に得点源になります。
しっかり勉強して高得点を目指しましょう!
会計学
会計学では理論の○×問題が例年10問出題されております。
100点満点のうち、半分近くの点数は○×問題に配点がつきます。
○×問題さえ抑えておけば、足切りは免れられるでしょう。
○×問題以外は出題項目が多いので山を張るのは難しいです。
理論が問われることが多いので、膨大な知識量が必要となります。
例外として過去問からの類似問題がよく出題されます。
過去問には必ずチャレンジしておきましょう!
試験対策
商業簿記と会計学の試験時間は2科目で90分です。
ペース配分が非常に重要な試験となります。
商業簿記60分、会計学30分の割合で問題を解くことができるのが理想です。
また、会計学の問題から解き始めることをオススメします。
商業簿記の問題を解くには、多くの時間がかかります。
1度手が止まると、あっという間に90分が過ぎてしまいます。
会計学を出来るだけ早く終わらせた上で、残りの時間を商業簿記に費やす形が最も点数の取りこぼしのない方法でしょう。
問題用紙と解答用紙の他にA4の計算用紙(白紙)がもらえるので、この計算用紙の使い方も練習しておきましょう。
プレッシャーのある中で初めて計算用紙を使うとなると、頭の中のゴチャゴチャがそのまま計算用紙に反映されてしまいます。
できる限り見やすく、そして綺麗に書く事で頭の中を整理することできますので、必ず計算用紙の使い方を練習しておきましょう!
工業簿記・原価計算の試験対策
工業簿記
工業簿記では部門別原価計算・個別原価計算・総合原価計算・標準原価計算などがよく出題されます。
様々な論点が複合した形で出題されるので、全経簿記上級の科目の中で最も難しい科目です。
問われている論点が何なのかを理解することができなければ、得点に繋ぐことができません。
工業簿記は基礎的な部分を中心に勉強しましょう。
応用は無視でも構いません。
70点を目標に60点ぐらいで落ち着けば合格にグッと近づくと思います。
70点が実質満点といっても過言ではありません。
簡単な問題を間違えないことが大事なので、難しい問題にトライする必要性はありません。
基礎中心で合格を目指しましょう!
原価計算
原価計算では直接原価計算・設備投資の意思決定・品質原価計算などがよく出題されます。
過去問の類似問題が多いので、過去問は解けるようにしておきましょう。
注意したいのが、ここでも理論問題が記述式で出題される可能性があります。
もちろん工業簿記でも稀にあるのですが、頻度としては原価計算の方が多いです。
原価計算の理論対策は疎かになりがちですが、しっかりと目を通して下さい。
原価計算は計算ミスさえしなければ簡単に解ける問題も多いので、反復して練習することでミスのないようにしておきましょう!
試験対策
工業簿記と原価計算の試験時間は2科目で90分です。
こちらも2科目あるのでペース配分が重要です。
商業簿記と会計学の試験と少し違うのは、どちらの科目に時間を多く使うかは問題次第という点です。
試験開始直後に、両科目の問題用紙と答案用紙の内容から判断しましょう。
傾向としては、原価計算の方が時間がかからないことが多いです。
したがって原価計算→工業簿記の順で進めていくのが正攻法ですが、逆のパターンもあるので注意が必要です。
商業簿記と会計学の試験と同様に、時間を多く使う科目は60分、時間のかからない科目は30分の割合で問題を解いていくのが理想的です。
計算用紙に関しても商業簿記と会計学の試験と同様です。
必ず計算用紙の使い方を練習しておきましょう。
最短で合格を目指すなら独学よりも専門学校へ通うべき
専門学校と独学
全経簿記上級に合格するために多くの方が専門学校へ通われております。
独学で合格することも可能な資格だと私は思っておりますが、決して楽な道ではありません。
専門学校に通うことは快適な空の旅だとお考え下さい。
東京(羽田空港)から北海道(函館空港)に飛行機で移動すると1時間30分程度かかります。
決して短い移動距離ではありませんが、とてもスムーズに目的地までたどり着けます。
一方で独学で合格しようとすることは、東京から北海道まで車で移動するようなものです。
東京から北海道まで車で移動した場合の移動時間は6時間以上です。
車での移動の場合は、目的地までスムーズにたどり着ける可能性は低いでしょう。
どちらのルートを選ぶかは皆様の置かれている状況によってご判断いただければと思いますが、専門学校へ通うことが合格への最短ルートであることは間違いありません。
筆者はTACの通信講座を受講
かくいう私は、TACのDVD通信講座を受講しておりました。
テキストと問題集、そして専門学校での講義が収録されたDVDが自宅に届きます。
自宅で自分のペースで学習することができるプランです。
私は大人数の中で学習することが好きではないので、自宅で受講できる形をとりました。
わざわざ専門学校へ足を運ばなくても受講できるのは、今の時代にあった学習スタイルとも言えます。
他にWEB上で受講できるプランや、当然専門学校で直接講義を受けるプランもあります。
通信講座の詳細が気になる方は、資料請求してみましょう。
傾斜配点
ここでは独学よりも専門学校へ通うことがなぜ、合格への最短ルートになるのかを具体的に語りたいと思います。
専門学校へ通うことが有利な理由は、全経簿記上級特有の傾斜配点にあります。
傾斜配点とは、受験者の多くが誤答した問題の配点が少なくなり、逆に受験者の多くが正答した問題の配点が多くなることです。
これこそが、専門学校へ通うことが有利である最大の理由です。
全経簿記上級の受験者の大半が専門学校へ通います。
専門学校では試験問題の予想を踏まえた上で、良い意味で偏った学習をすることになります。
専門学校へ通う受験者は専門学校で習った問題は解くことができるし、習っていない問題は解くことができない状態です。
これがそのまま傾斜配点へと繋がります。
専門学校で習っていない問題が試験に出てしまった場合、ほとんどの受験者は問題を解くことができないのです。
つまり、その問題の配点が少なくなる可能性が高いということです。
独学で受験する場合には、専門学校へ通う受験者が解けない問題を解けてしまう可能性があります。
また、専門学校へ通う受験者が簡単に解けてしまう問題が解けない可能性もあります。
独学の場合、試験範囲を満遍なく勉強する方が多いと思われます。
その結果、専門学校へ通う受験者よりも試験の傾向や頻出問題に疎くなります。
せっかく受験者の正答率が低い問題を解くことができても、その問題の配点が0点ということもあり得ます。
逆に受験者の正答率が高い問題を解けなかった場合、合格はかなり厳しいものとなります。
これが独学の唯一の欠点であり、最大の欠点でもあります。
どの問題も一律2点といったような配点方式であれば、独学の方でも専門学校へ通う方でも合格率に大差は出なかったでしょう。
傾斜配点を味方につけろ
私自身、この傾斜配点のおかげで全経簿記上級に合格することができました。
解答速報の点数は全経簿記上級の合格ラインに満たないものでした。
商業簿記87点
会計学80点
工業簿記30点
原価計算84点
合計281点
解答速報の段階では280点という基準は越えているものの、工業簿記が40点に満たないため不合格です。
しかし、合格発表日にインターネットで点数を確認するとまさかの312点!

工業簿記は、始めの2~3問と簡単な穴埋め問題しか解けていないにも関わらず40点という足切りラインを越えました。
本来であれば2~3点しか配点がこないところに、20点以上の上乗せがあったという事です。
その他の科目も点数が微増しています。
受験したことが無い方からすると不思議な現象かもしれませんが、全経簿記上級ではよくある現象なのです。
この傾斜配点を味方につけた方が、全経簿記上級に合格するでしょう。
味方につけるための一番の方法は専門学校へ行くことです。
簿記の専門学校
資格の大原
言わずと知れた資格の大原です。
全国に学校があるので、どのエリアにお住まいの方でも通うことができます。
WEB上で受講することもできます。
たくさんコースが用意されておりますので、自分のスタイルに合ったコースが見つかると思います。
資格の学校TAC
こちらも有名な資格の学校TACです。
資格の大原と同様に全国に学校があるので、どのエリアにお住まいの方でも通うことができます。
もちろんWEB上で受講することもできます。
私はTACさんにてDVD通信講座を受講しておりました。
こちらもたくさんのコースがあるので、まずは無料の資料請求をしてみましょう。
独学の場合の市販のテキスト
全経簿記上級の市販のテキストは極めて少ないです。
したがって独学の場合には、日商簿記1級の市販のテキストを購入する形になります。
「スッキリわかるシリーズ」がお勧めですが、市販のテキストでは全ての出題範囲をカバーすることはできません。
実は全経簿記上級には公式テキストが存在します。
公益社団法人全国経理教育協会が出版しているテキストなので、最終的にはこの公式テキストを購入しましょう。
公式テキストはあくまで2冊目として買うことを推奨します。
文字の羅列で絵が少ないので、非常に読みづらいです。
とはいえ、本試験は当然公式テキストをもとに出題されることが予想されますので、「スッキリわかるシリーズ」でカバーできていない論点を、公式テキストでカバーするような形で勉強するのが1番効率が良いかと思います。
解答速報
解答速報といえばネットスクールです。
試験終了後、数時間後には解答が公開されております。
翌日以降になりますが、TACや大原でも順々に公開されていきます。
理論問題の記述に関しては、正解となる解答が複数存在する場合があります。
解答速報の内容と異なるからといって、必ず不正解というわけではないことを覚えておきましょう。
また、配点については実際の配点とは異なるので参考程度に考えておきましょう。
まとめ
全経簿記上級は非常に難しい試験ですが、得られるものもとても多いのでオススメの資格です。
資格を取るということは自分自身の能力の証明になります。
この記事をここまで読んでいただいた方なら、きっと全経簿記上級にチャレンジし合格することができるでしょう。
質問や疑問があれば随時受付しておりますので、お問い合わせフォームからご連絡下さい。
それでは皆様の合格を心より祈願しております。